サイコパスの素顔

小説を書いています。映画レビューもしております。

LIX. 殺欲

 

 あぁ……殺したい。

 久しぶりに人を殺したい。

 

 サイコパスは、殺欲を覚えた。

 

 たまにこういう気分に陥る。

 何だろう……刺激が何もない時にそう感じるのかな。

 何もすることがない時、ごく稀にそういった欲望に心が支配される。

 

 一度そうなったら、もはや理性だけでは抑えきれない。

 

 サイコパスは、頭を抱えた。

 

 あああああ! マジで誰でもいいから、俺の殺欲を満たしてくれないかな!

 もう耐えらんないっ! 日々同じようなことの繰り返しで面白味がないんだよ!

 このままじゃ退屈すぎて死んでしまいそうだ……!

 

 誰でもいいから、俺に殺されたい奴、手ぇあげろぉおお!!

 

 サイコパスは、狂いだした。

 

 発狂しながら頭をぼりぼりと搔き毟る。

 皮膚は爪の中に食い込み、血が頭皮に滲んでくる。

 

 サイコパスは、刺激を求める。

 

 安心安全な国で暮らし、生ぬるい風に当たっているだけじゃ刺激が足りない。

 そんな人生じゃ、生きている実感が湧かない。

 

 定期的に人を殺して、ハラハラドキドキ感の味を心に沁み込ませなければならない。

 そうしないと、自分で自分を殺してしまいそうだ……

 

 よし、決めた! 次視界に入った奴、誰でもいいから問答無用に殺そう……!

 

 サイコパスは、刺激がなければ生きられない。

LVIII. 孫

 

 孫は本当にかわいいもんだよ……

 

 サイコパスは、機嫌がいい。

 

 久しぶりに顔を見せてくれた孫は、何やら嬉しそうな顔をして、寄り添ってきた。

 話を聞くと、どうやら学校でいいことがあったそうな……

 

「ねぇ、おばあちゃん! 今日ね、今日学校でね、先生に褒められたの!! 絵がうまいってみんなの前で褒められたの!」

 

 無邪気に喜びを表現する孫は、その喜びをおばあちゃんにも分けてくれた。

 

 サイコパスは、自然と笑みがこぼれる。

 

 真っ先に私のもとへ、おじいさんよりも先に、その報告をしてくれたことが、おばあちゃんにとっては何より嬉しいことだよ。

 

 もし、逆だったら、どうなっていたことか……

 

 サイコパスは、顔にしわを寄せる。

 

 そんなこと考えただけで、不愉快になる。

 

 でも、今日は、「おばあちゃん!!」ってその綺麗な顔を見せてくれた。

 

 孫はやっぱりかわいいもんだよ……

 

「そういえば。おじいちゃんは……?」

 

 その言葉を聞いた途端、おばあちゃんは孫を睨みつける。

 今まで笑顔だったおばあちゃんの心に雷が落ちたかのように……

 

 サイコパスは、気難しい。

LVII. 都会

 

 サイコパスは、理解できない。

 

 都会という場所に集まる人々。

 その存在はまるで意味不明だ。

 

 交差点に集まる人々。

 日々多くの者が肩と肩がぶつかるすれすれのところを通って歩く。

 

 電車に詰められる人々。

 毎日仕事に向かうために汗と加齢の臭いに包まれ、身動き一つとれずに運ばれる。

 

 サイコパスは、理解できない。

 

 なぜ人々は群がっていくのだろう。

 文明が栄え、人々は一点に集まり、集団組織として生活をする。人と人が密接に関係を持ち、切磋琢磨して成長していく。

 その理屈を理解することはできる。それは人類の歴史を見れば分かることだ。

 

 だが……

 

 サイコパスは、納得できない。

 

 なぜそんなにも近づき合うことができるんだ。

 多くの人が、すれ違う人を、通勤で顔を合わせる人を、それぞれ皆を信用できるわけがない。

 どこの誰だかも分からぬ、何を考えているのかも全く分からない。

 そんな人々をなぜ警戒もせず、皆が一点に集まることができるのだろう……

 

 ――『都会』。

 

 そこは極めて恐ろしい場所だ。自分自身では何もすることなく、自然と人々を呼び寄せる。白人も黒人もアジア人も、人種に関係なく、男も女もそうでない人も、性別に関係なく、教師も医者も弁護士もサラリーマンも、職業に関係なく、常人もサイコパスも、人格に関係なく、『都会』は至って冷静な表情で差別なく誘い込む。

 

 それだけ勝手に人々が集まれば、自ずと人々は暴力的になる。事故や事件、多くの者が傷つき命を失っていく。

 悪の根源である『都会』は涼しい顔をして、人々にとって極めて厄介な危険地帯へと変貌する。だがそれが『都会』の本性であり、人々を苦しめることを糧に何十年何百年と繁栄を続けていく。

 しかし誰も気づかない。いや、気づかないフリをしているだけなのかもしれない。人々もまた野蛮で暴力的な種族である。同じ気質であるからこそ『都会』と『人間』は惹かれ合うのかもしれない。

 

 そう考えると恐ろしくて堪らない……何を信用していいのか分からない……

 

 サイコパスは、都会と人間に怯える。