サイコパスの素顔

小説を書いています。映画レビューもしております。

サイコなパスな考え方(超短編小説)

CX. 殺人 ⑪

「いらっしゃいませ~!」 早起きが得意な人が来店する朝。来店と同時に吹き込んできた空気は気持ちの良い暖かさ。 よかった……今日もいつもと変わらず清々しい。 「おはようございます。今日は何になさいますか?」 私はいつもの奥の席に腰を下ろした白髪の…

CIX. 愛を知る

頭の中を覗いてみたいと思った人はどれほどいるんだろうか……。 君はどう? あなたは? 他の人がどう考えているのかどうかは知らないが…… サイコパスは、毎日考えている。 頭の中を、脳みそをこの目で直に見たいと思ってる。 長年付き合いのある友人の頭を、…

CVIII. 努力は決して裏切らない……とは限らない

人は言う。 「努力をしなさい」と。 人は言う。 「努力をすれば、どんなことでも実現できる」と。 サイコパスは、こう言う。 「努力は決して裏切らない……とは限らない」と。 努力とは、只管に流した汗の結晶であり、それはそれは美しいものである。 だがその…

CVII. 零れ落ちる鱗

サイコパスは、世界が変わる瞬間に立ち会った。 今まで映ることのなかった景色が目の前に広がり、近くのものはもちろんのこと、遠くに立ち並ぶ山のシルエットさえもよく見える。 美しい……! サイコパスは、涙を零した。 こんなにも世界が美しかったなんて………

CVI. 「殺す」で溢れかえる街

「あいつゼッテェ殺してやる!!」 最近の若者は、すぐキレる。 いや、最近でなくとも、すぐキレる若者はいる。昔だっていた。 だが昔は、簡単に「殺す」と口に出す若者はそういなかった。 今は、そうじゃない。何か不満なことがあれば簡単に「殺す」と口に…

CV. 尊殺

サイコパスは、……。 自尊心を傷つけることが何よりも有効な殺害方法だと知っていた。 生まれ出でて此の方、言い寄ってくる男に困ったことはない。だからこそ、男を傷つけることがどんなに楽しいかを知ってしまった。 女は創られた遺伝子に写っていた情報に従…

CIV. イラっとすること

…………チッ。 サイコパスは、今少しだけイラっとした。 それと……少しばかりの殺意も芽生える。 小さなことだけど、些細なことだけど……イラっとする瞬間は誰にでもあると思うんだ。 私の場合は、エレベーターを降りる際に何も言わない人にイラっとする。 えっ………

CIII. なぜ

「なぜ」を考えろと親に教わったことがある。 なぜ火は燃えるの? なぜ飛行機は空を飛ぶの? なぜ人は生きるの? そんな「なぜ」を色々考えて思った。 なぜ、「なぜ」を考えないといけないの? サイコパスは、ふと疑問に思ってしまったのだ。 学校の先生が教…

CII. 内臓吸い取り機

正月ということで、少し笑える話をしようじゃないか。 正月ぐらい、残酷な話は控えたほうがいいだろ。 正月なんだから、みんなで楽しく過ごしながらお餅でも食べようではないか。 サイコパスは、お餅を頬張った。 口の中に広がる粉っぽさ、それと同時に舌に…

CI. 謹んで新年のご挨拶を申し上げます

今年も1年早かったなぁ~、と声を漏らし、振り返ってみても大した思い出が記憶に残っていないことに気がつく年末。今年もまた、1年が終わる。 時計の針を気にしながら、ズルズルと啜る音が炬燵の温もりに重なる。 昔はよく、家族揃ってワイワイと談笑したも…

C. 殺人 ⑩

「ふ~ふふ~ん。ふ~ふふ~~ふ~」 随分と機嫌がよく、鼻歌交じりの細い声が波の音に飲み込まれる。 「ふ~ふふ~ん」 他に聞こえてくる音と言えば、ザク……ザク……と軽快なリズムを奏でる砂の音。 時たま聞こえてくる不協和音は、スコップと貝殻がこすれる…

XCIX. 法律

法律の勉強がしたくなって、僕は大学進学を選んだ。 高校では理系だったものの、突然法律に興味が湧いてしまったから先生の反対を押し切って文転した。 受験科目がいくつか変わり、社会科目をもう一つ選ばないといけなくなった。 正直、試験3か月前のこの時…

XCVIII. 恐れるもの

サイコパスは、虚しくなった。 高層ビルの屋上。 空を眺めれば、どんよりとした曇り空が見つめ返してくる。下を覗き込むと、溢れかえる人の集まりが目に入る。 満たされない胸の奥が、うずうずと悶える。 何が欲しいのか、何をしたいのかも分からず、ただだ…

XCVII. 女ってやつは

サイコパスは、ふつふつと湧き上がる憤りを覚えた。 僕は、真面目な青年。勉強と只管に向き合い、運動においても決して手を抜かない。 ただのガリ勉ではなく、何事にもまっすぐなだけだ。 その気質のせいなのか、最近気に食わないことがあった。 どう考えて…

XCVI. 破壊衝動

形あるもの、いつか壊れる。 人には何かを破壊したいという欲がある。 だが壊すものがなんでもいいというわけでもない。 サイコパスは、決まったものしか壊さない。 手ごろに手に入るもので言えば、ビー玉。 それに、明かりの点いている電灯。 あとは、ワイ…

XCV. ムービー・フォーエバー

目の刺激は耳の2,000倍。 どこかでそんなことを聞いた。 確かに……そうかも。 頑張って働き続けた1日の終わりに目が辛くなることって結構あるよね。 目を閉じて深呼吸してみると、疲れがどっと溢れてくる。じっとりとじっとりと味の出てくるモツ肉を噛み締め…

XCIV. 好きだからこそ

サイコパスは、同僚に相談した。 「最近好きな人ができたんだけど、どうしたらいいと思う?」 相談した相手もまた、サイコパス。 同じサイコパスだからこそ、悩みを打ち明けた。きっといい答えが聞ける。そう思って彼は、サイコパスである会社の同僚に悩み相…

XCIII. 叩殺

サイコパスは、……。 銀行にて立て籠もり。多くの人質がとられている。 警察は要求に応えない。犯人は人質を一人ずつ殺すと宣言。それでも狼狽えない警察。 マスコミの目の前に頭陀袋が投げられる。よく見るとそれは人間。 顔面は見る影もないほどズタズタ。…

XCII. 泡

サイコパスは、ゲホゲホッ……ゲホ。 今日の朝、急いでお風呂に入った。 頭洗って、体洗って、そして洗顔。 その時だった。死ぬかもしれない……そう思ったのは。 思い切り泡立てた洗顔料を顔一杯に塗りたくって、手の平で転がす。今思い返せば、泡のほとんどが…

XCI. 目障り罪

優先席に座る、平気で通話する、見た目ヤンキー。はい、死刑。 派手なベルト、夜なのにサングラス、横柄な態度。はい、死刑。 茶髪、日サロ黒、キャップ、キツい香水。はい、はい、死刑。 マナーがなっていない、自分のことをカッコいいと勘違いしている、典…

XC. 殺人 ⑨

波の音にその身任せ、隣にいる美しい女性の横顔を盗み見る。 幸せといえるこの時間、朝7時の太陽は優しかった。 「綺麗ですね」 彼女が言う。 「ええ。綺麗です」 僕が言う。 「サキさんは、海好きなんですか?」 「う~ん。好き。よく一人で来たりする」 輝…

LXXXIX. 靴

サイコパスは、コレクションを見てしみじみと感じた。 おもしろいよね……靴って。 サイコパスは、靴に対して不思議な感情を抱いていた。 それも新品の靴じゃなく、何年も履き潰したようなおんぼろ靴。 人が履いた靴には、歴史が詰まっている。 その人の思い出…

LXXXVIII. 砂抜き

ジャリ……ッ! うっ……。 サイコパスは、口の動きを止めた。 ……最悪。またかよ。 サイコパスは、口の中で噛み潰したものをすべて吐き出した。 テーブルの中に吐き出されたそれは、身と僅かの砂粒。 おいおい! これマジで不快だわー。美味しく食べてるのに急に…

LXXXVII. 赤ワイン

サイコパスは、ワインを口にして一言。 ――美味い! ワインは、赤と白があるが、私はもっぱら赤が好きだ。 渋みとコクが口の中に広がっていき、舌の上の10,000個の味蕾を刺激する。 その瞬間、欲しくなってしまうのだ……厚めの極上肉が。 君たちだってそう思う…

LXXXVI. 形なき形

整形……形を整えること。 整形にはいろいろな意味があるが、そのほとんどは「ブサイクな顔をキレイにすること」の意味で用いられる。 生まれたときの顔では満足できない……だから整形する。 というよりは、ブサイクが故に虐げられてきたから顔を変える。オブラ…

LXXXV. ヒートショック

お風呂での死亡事故って案外多い。 ウソでしょ、お風呂で溺れる? そんなことあるの……!? そう思うのも当然かも。 一日の疲れを癒そうとして、自らの意思で入った浴槽で死ぬなんてちょっと可笑しい。「極楽、極楽……」って言いながら気持ちよさそうに死んじ…

LXXXIV. 時代が親切心を殺す

サイコパスは、今日見た風景をそのまま話す。 電車の中。向かい側に座る女子中学生ふたりが目に入った。 その隣には、おばあちゃん。歳は、おそらく70ぐらい。その隣にはおばあちゃんの息子らしい男性がいた。年齢は30代後半ぐらいだ。 電車が進み始めると、…

LXXXIII. 暴食

サイコパスは、パンパンに膨れ上がったお腹をさすった。 お腹を刺激する何かが蠢く。 きりきりと痛むお腹の中から、胃を突き破って出てきそうだ。 もし仮に、お腹の中で共同体となったらどうする? 一つの意識を共有する集合体に化けていたらどうする? 一つ…

LXXXII. かわいい子が好き

サイコパスは、今日も仕事だ。 朝起きて、お風呂に入る。朝食を食べる時間はないけど、一杯のコーヒーだけは忘れない。歯を磨いて鏡でチェックして、家を出た。 いつもの電車にいつものドアから乗り込むと、いつもの席に腰を下ろした。誰もが好きな、シート…

LXXXI. 抉殺

サイコパスは、……。 憎しみ、怒り、愛。 行き先は、冷酷。 人は人を憎み、憎んだ記憶は忘却できない。憎しみは些細なことで掘り起こされ、怒りはすぐさま沸点に達する。 愛せば愛すほどに、愛は愛を歪ませる。 歪んだ感情はまっすぐに突き進む。どんなに固い…