サイコなパスな考え方(超短編小説)
朝の陽ざしに心躍り、全身が汗ばむほどがむしゃらに走る。公園を駆け抜け、海沿いの砂浜を蹴り、近くのカフェで飲む一杯のコーヒーが喉を潤す。 息が上がりながらも、店員の眩しい笑顔に癒されながら、疾走感と清涼感、悪いものが体からすべて流れ出るような…
サイコパスは、知人に似た人物を見かけた。 それも、突然。 突然の出来事に驚いている。 年が離れているから本人かもしれないって思うことはなかったけれど、そのソックリぶりに、自分の目を疑った。 目元が似ていて歯並びもソックリ。まるでその知人の妹の…
サイコパスは、チャンスを逃してきた。 ここぞというときに、不安や恐怖に駆られ、自らが抱く想いに素直に向き合えない。 その心の弱さゆえ、チャンスを逃してしまう。 誰かが言っていた。 『行動すれば、変わる』と。 まさにその通りだと今なら分かる。 受…
単刀直入に言う。 タバコが嫌いだ。 サイコパスは、タバコが嫌いだ。 人は時に、カッコつける。 特に男は、カッコつけたがる。 その時に便利な道具が、タバコって代物だ。 粋がっている男、やんちゃな男、自分のことをカッコいいと勘違いしている男。 こいつ…
サイコパスは考えた。 なんで人の指って、10本なんだろう……? 足の指を合わせたら20本……まぁ足はとりあえずいいか。 人の指ってなんで10本なんだろう……? その中でも、どの指が一番重要なんだろう……? サイコパスは考えた。 親指は重要だよね。 だって、親指…
サイコパスは、大学に入って3年が経つ。 今週は、テスト期間。大学の卒業を賭けた大勝負だ。 一週間で8つものテストがある。専門科目から教養科目まで多種多様。一夜漬けで満点が取れる比較的容易なテスト、何週間も前からみっちり勉強しないと合格点にすら…
サイコパスは、よく小説を読む。 電車に揺られながら、って言葉、よく見かける。 小説とかの決まり文句だよね。出だしに困ってるときや物語を締めたいとき、よく使われるよね。 サイコパスは、筆を握った。 電車に揺られながら……わたしも使ってみたい。 電車…
サイコパスは、人を殺した。 僕は人を殺した。 でも興味本位で殺してしまったから、この後どうしていいか分からない。 そこで僕は友達に電話することにした。 「あ、もしもし、僕だけど、今大丈夫?」 「今? ……うん、大丈夫よ。どうしたの?」 電話に出た友…
サイコパスは考えた。 自殺することについて考えた。 人は皆、知らずのうちにこの世に生を受け、勝手に死のうと考える。 面白くない。落胆。がっかり。悲しみ。絶望。 自分の人生において、一瞬でもそのような感情を抱くと、人はどうしてか、死ぬことを考え…
サイコパスは、大学を卒業した。 生まれつき常人よりも高い知能が備わっていたため、大学に入ることは元より卒業することも容易かった。 でもそんな僕にも一つだけ悩みがあった。 それは……自分がやりたい仕事が何なのか見つけることができなかったということ…
サイコパスは、考えていた。 というよりも…… サイコパスは、思い出そうとしていた。 僕の殺した彼女が、どんな女性だったかを。 突発的に殺し、死体の処理に困った僕は、解体して骨のネックレスを作ったり、その肉を散々食らったりした。脂肪、血、肉、骨………
サイコパスは、苦しんでいる。 やばい、ヤバい、マジ……ヤバすぎる。 今までオレもいろいろな粉に手を出してきたけど、こいつはヤバすぎるぜ。 なんてったって、中毒性も快楽もないのに、苦しみだけは襲ってきやがる。 吸ってる感覚がなくても勝手に体の中に…
サイコパスは、割と礼儀正しい。 その辺のクズより、その辺のギャルより、その辺のヤンキーより。 サイコパスは、礼儀を重んじる。 「おはよう」 「こんにちは」 「こんばんは」 「おはようございます」 「こんちは」 「こ~んば~んは~」 「おはーっす!」…
サイコパスは、趣味を持つ。 私は今、28歳。いい年して結婚もしないでアパートで一人暮らししています。 普通のOLをしています。受付嬢みたいに可愛いわけではないですが、それでも一生懸命仕事をしています。時代遅れのセクハラ、男尊女卑に囚われた男性社…
人は皆、同じなのか……? サイコパスは考えた。 ときどき思う。 喜びや悲しみ、怒りや憎しみ、痛みや恐れ。 その感情・感覚は共通のものなのだろうか。 経験からものを言えば「そりゃそうだ」と簡単に答えが出る。 友達と遊べば楽しいし、嫌なことをされれば…
ムカつく…… 今日もまた、満員だ。 サイコパスは、ため息をつく。 電車が満員なのは仕方がない、と百歩譲って許そう。 ムカつくのは……ここまで俺のことを苛立たせるのは、リュックを背負うクズどもだ。 サイコパスは、リュック勢を睨みつける。 邪魔なんだよ…
最も大切だと私は思う。 生きる上で、長く生きる上で、最も大切なものの数が、28、多くて32。 これがなければ、生きることは難しくなる。たとえ生きられても、ひ弱になる。 永久に付き合うそのものは、力となる。 痛みと闘う時も、悲しみと向き合う時も、恐…
ぐつぐつと、煮えたぎる鍋に具材を放り込む。 ニンジンさん…… ジャガイモさん…… タマネギさん…… …………? サイコパスは、お肉片手に動きを止めた。 あれ……? このお肉の名前、何だったかしら? さっきまで覚えていたのに……年を取ると記憶力が悪くなっていく。 …
サイコパスは、夢を見た。 不気味なピエロが追いかけてきて、殺そうとしてくる夢を。 その殺人ピエロから逃げるためにひたすら走る。 でもどうしてか、ピエロとの距離が変わらない。 息を切らせながらどんなに足を動かしても、ピエロは不気味な笑顔でナイフ…
『文字には、命がある』 サイコパスは、学生時代にもらったラブレターを机の奥底から見つけた。 久しぶりに日の光を浴びたラブレターは、長い年月をかけてうっすらと色あせてしまっていた。 ザラザラとした紙の耐久力は弱くなり、少しでも雑な扱いをすれば今…
うぇ……さすがにもう気持ち悪い。 サイコパスは、肉が刺さった状態のフォークを皿の上に置いた。 カランと金属音が鳴り響き、不快感を刺激する。 今日で何日目だろうか……? 朝昼晩とずっとお肉を食べている。 ステーキだけじゃ飽きてしまうから、唐揚げや肉じ…
あぁ……殺したい。 久しぶりに人を殺したい。 サイコパスは、殺欲を覚えた。 たまにこういう気分に陥る。 何だろう……刺激が何もない時にそう感じるのかな。 何もすることがない時、ごく稀にそういった欲望に心が支配される。 一度そうなったら、もはや理性だ…
孫は本当にかわいいもんだよ…… サイコパスは、機嫌がいい。 久しぶりに顔を見せてくれた孫は、何やら嬉しそうな顔をして、寄り添ってきた。 話を聞くと、どうやら学校でいいことがあったそうな…… 「ねぇ、おばあちゃん! 今日ね、今日学校でね、先生に褒めら…
サイコパスは、理解できない。 都会という場所に集まる人々。 その存在はまるで意味不明だ。 交差点に集まる人々。 日々多くの者が肩と肩がぶつかるすれすれのところを通って歩く。 電車に詰められる人々。 毎日仕事に向かうために汗と加齢の臭いに包まれ、…
シトシトと、降る雪積もる、クリスマス。 赤らめる、乙女心が、溶かすかな。 サイコパスは、愛の告白を受けた。 正直な話、突然呼び出されて戸惑っている。 ドキドキと無意識に鼓動が高鳴っている。 サイコパスは、目の前でタジタジする可愛い瞳を見つめる。…
おいっ! いい加減にしねぇとそろそろマジで殴り殺すぞ! サイコパスは、店内の雰囲気と香りに耽っている。 久しぶりに地元に帰ってきて、学生時代に通っていたうどん屋に足を運んだ。 相変わらずコシが強くてのどごしがよく、鰹の香り広がる出汁もうまい。…
サイコパスは、面接に立ち会った。 「はい、それでは、あなたのお名前を教えてください」 サイコパスは、マニュアル通りに面接を始める。 だが……退屈だ。 この人ですでに20人目だが、ここまでに面白い人が一人でもいただろうか。 即答できる……ノーだ。 同じ…
みんなは、こどもって好き? こどもって可愛いよね。 見てるだけで癒される。 知らない子でも、守ってあげなくちゃって思わされる。 でもね、そう思うのは、常人だけなんだよ。 サイコパスは、ちょっと違う。 本来人間には、丸いものや手足が短いものに愛お…
サイコパスは、髪を洗っている。 肩下まである長く黒い髪を、丁寧に一本一本洗っている。 高級なシャンプーとリンスを使い分けながら、時間をかけて丁寧に丁寧に丁寧に丁寧に洗っている。 これが洗い終わったら次はあの子の髪を洗ってあげないと…… サイコパ…
サイコパスは、重い瞼を持ち上げる。 いつからだろう……もうわからないや。 一度目を瞑ってしまったら二度と目を覚ますことがないんじゃないか…… いつからかそんな恐ろしい想いを抱いてしまい、眠ることを拒んできた。 サイコパスは、目をこする。 いや……ほと…