VI. 先生
「はい、それでは教科書の49ページを開いてください」
サイコパスは考えた。
制服に身を包んだガキを相手に、教壇に立って偉そうに話すあいつは、何者なんだろうか。
サイコパスは得体の知れない人物を観察した。
「こら、そこ。携帯しまって先生の話を聞きなさい」
先生? 今あいつ、自分のこと『先生』って言ったのか?
『先生』ってなんだ? 『先生』ってどういう人のことを指す言葉なんだろうか。
サイコパスは深く考えた。
優しくて感じがよく、なんでも相談に乗ってくれる先生。
態度が悪く、生徒に悪態ばかり吐く先生。
叱ってばかりで怖いイメージしかないけど、本当は誰よりも生徒想いの先生。
面倒ごとを嫌い、いじめを見て見ぬふりする先生。
生徒と同じ目線に立ち、威張ることなく、友達のような関係を築く先生。
生徒に嫌われたくなく、当たり障りのない話しかできない先生。
女子生徒の人気が欲しく、ひいきばかりする先生。
就職活動に失敗し、なんとなくなった先生。
暴力や痴漢、万引きや殺人のような犯罪に手を染める先生。
そのすべてを『先生』と呼ぶ。
そして大人は、『先生』を敬えと説教する。
サイコパスは分からなくなってきた。
『先生』って誰でもなれるものなのかな。