VII. 哀しい生き物
サイコパスは、昔から人気があった。
子供のころから明るく、友達がたくさんいて、誰もが憧れる存在だった。
まぁ、美人過ぎて鼻につくってこともあって、誰からも好かれていたってわけではないけど……
でもそういう嫉妬心の塊のバカ女どもはどうでもいい。
とにかく、みんな周りに集まってきて、どこへ行くにもついてくる子が何人かいたりした。
その中で特に、今でも記憶に残っている仲の良かった友達がひとりいる。
サイコパスは高校時代を思い出した。
その子はめちゃくちゃブスで、お世辞にも可愛いとは言えない女の子だった。
私と比べると……比べるのは可愛そうだけど、とてつもないブスだった。
目は細いし、鼻はぺちゃんこ。顔はでかいし、話も面白くない。勉強の成績も悪く、スポーツもできない。
何だったらできるのかな……? と疑問に思うぐらい何もできない子だった。
クラスメイトの誰にも相手にされず、いつも独りぼっちだったその子の背中はとても寂しそうだった。
でもなんだか、その子のことが気になってしまい話しかけてみた。
最初はすごく警戒されてなかなか目を合わせてくれなかったけど、月日を重ねるごとに、だんだんと心を開いていってくれた。
サイコパスは、この時とても嬉しかった。
他人が自分のことを信頼してくれる姿は、なんとも言えない喜びを感じる。
それで、その子とはよくふたりで遊んだものだ。
学校が終わった後、仲良くアイスを食べに行ったり、服を買いに行ったり、プリクラをとったり、夜遅くまで遊んだ思い出が懐かしい。
サイコパスは、自分の本音に目を向けた。
でも本当のところ、その子のことなんて別に好きじゃなかった。
じゃあなんで、ふたりで遊んでいたかって……?
そんなの決まってるじゃん。
……自分の美貌を際立たせるためだよ。
ブスな子と一緒に歩いてれば、必ず可愛く見えるし、そんな暗い子とも仲良く接してあげてるってことで社会的評価も上がるでしょ。
それ以外に、話しかける理由なんてなかった。
ただ単に、自分の周りに極端なブスを置いておきたかっただけ。
ただそれだけ……
あの子は……誰かに寄生しないと生きていけない……哀しい生き物。
暗くて何の取り柄もない子が、そのブスという特徴を生かして誰かの役に立ったんだから、その子も嬉しかったはず。
話しかけて遊んであげただけで、感謝してもらいたいぐらい。
サイコパスは、心に手を当てて考えた。
……違う。違うかも……
そんな風に思ってたのは、間違いない。確かにそう。
でもそれは……最初だけ。
あの子と接しているうちに、なんだか気持ちが変わってきた気がした。
あの子の笑顔、あの無邪気に喜んでいる笑顔を見ると、最低な考え方しかできない自分が恥ずかしくなった。
綺麗で可愛い姿に酔って、表面しか見えてなかった。
本当のことが見えていなかったことに恥ずかしさを感じた。
それに比べ、あの子は違った。
可愛くないくせに、何もできず不器用なくせに……笑顔だけは眩しかった。
サイコパスは、あの子の眩しさを思い出す。
その眩しさに、嫉妬していたのかもしれない。
それでその子のことが本気で好きになり、いつも一緒にいたのかもしれない。
寄生していた哀しい生き物はあの子じゃなく、自分だったのかもしれない。
サイコパスは、久しぶりに涙を流した。
時が経ち、連絡は取り合っていないけど、またあの子に逢いたい。
逢って、あの眩しい笑顔をこの曇った瞳で見たい。
最低な考え方しかできない自分の心を照らしてもらいたい。
サイコパスは、自分が持っていないものに嫉妬し光を感じた。