XLVI. クリスマス
サイコパスは、彼氏を殺してきた。
今日は、クリスマス。
粉ミルクが大空から舞い散るかのように、甘い記念日がやってきた。
昨日まで付き合っていた愛しい彼氏は、もういない。
彼は私のためにプレゼントを買ったりと、この日を楽しみにしていたらしいが、私は違った。
――他に好きな人ができてしまったのだ。
今日、このクリスマスに、私はその好きになった人に告白する。
その為には、彼と別れるしかなかった。
でも別れを切り出すのは、彼を悲しませることになる。
そんなことはしたくない……
いくら他に好きな人ができたといっても、彼を嫌いになったわけじゃないから……
優しかった彼のことだから、私が「別れたい……」なんて言ったら、寂しそうな表情を浮かべながらも「わかった、君の幸せを願うよ……」そう言って彼は身を引く。そんなことは安易に予測できた。
だから……殺した。
彼と過ごした、楽しかった今までの記憶を、悲しい別れで汚したくはなかったから……
彼の幸せそうな笑顔をこの瞳に記憶し、
「ハッピーメリークリスマス……」
その言葉を最後にかけて、彼を雪積もるどこかに埋めてきた。
これで、私たちふたりは、幸せだ。
彼はこれから先、悲しむことはない。私との幸せな記憶の上に余計なものは降りかからない。
私は私で、新しく好きになった人と、違う幸せな記憶を積み上げていくことができる。
サイコパスは、気持ちの準備を整え、告白しにあの人の元へと向かった。
シトシトと、想い募らす、クリスマス。
赤々と、乙女心を、染めるかな。