サイコパスの素顔

小説を書いています。映画レビューもしております。

LXI. 文字

 

 『文字には、命がある』

 

 サイコパスは、学生時代にもらったラブレターを机の奥底から見つけた。

 

 久しぶりに日の光を浴びたラブレターは、長い年月をかけてうっすらと色あせてしまっていた。

 ザラザラとした紙の耐久力は弱くなり、少しでも雑な扱いをすれば今にも破れてしまいそうなほどだ。

 

 そのラブレターを優しくつかみ、広げてみる。

 

 サイコパスは、紙の上に書かれている文字に心を奪われた。

 

 その文字は、何年もの長い年月が経った今でさえも、華やかさを持っていた。

 文字の濃さは確かに薄くなっているが、文字自体の力強さは劣ることを知らない姿であった。

 

 『文字には、命がある』

 

 昔、彼女がそう言っていた。

 

 文字にはその文字を書いた人の性格や思考がそのまま移る。

 だから、たとえその文字を書いた人がこの世からいなくなっても、文字はいつまでも生き続ける。

 

 このラブレターを書いてくれた懐かしい彼女だって、今はもういないけど、この手紙の上で生きている。

 文字を読むたびに、彼女の声が、過ごした時間が、温かい思い出が心の中に蘇る。

 

 『文字には、命がある』

 

 その言葉の意味が、理解できた気がする。

 

 サイコパスは、彼女をそっと机にしまい込んだ。