LXII. 道化
サイコパスは、夢を見た。
不気味なピエロが追いかけてきて、殺そうとしてくる夢を。
その殺人ピエロから逃げるためにひたすら走る。
でもどうしてか、ピエロとの距離が変わらない。
息を切らせながらどんなに足を動かしても、ピエロは不気味な笑顔でナイフを握りしめながら迫ってくる。
むしろ、どんどんピエロとの距離が縮まっている気さえする。
恐怖で足が震え、嫌な汗が体中から噴き出してくる。
でもピエロは、何ら変わらぬ笑顔のまま追いかけてくる。
手に握られたナイフが銀色の輝きを放ち、猛ダッシュで近づいてくるピエロは、明らかにおかしい。
ナイフが振り上げられ、ヤバい……殺されちゃう……
そしてそのピエロの手が肩に届く、そう思った瞬間にいつも決まって目を覚ます。
サイコパスは、現実を見た。
ベッドは汗と血でヌルヌルと滑り、部屋の隅っこには、ピエロの被り物が転がっている。
手に握られたナイフは、夢のような輝きを放つことなく固まったどす黒い血がこびりついている。
サイコパスは、鏡に映る自分の姿に、ピエロの様な不気味な笑顔を見た。