LXVIII. 挨拶
サイコパスは、割と礼儀正しい。
その辺のクズより、その辺のギャルより、その辺のヤンキーより。
サイコパスは、礼儀を重んじる。
「おはよう」
「こんにちは」
「こんばんは」
「おはようございます」
「こんちは」
「こ~んば~んは~」
「おはーっす!」
「っんちは!」
「こんば~!」
「ういっす!」
「ちはーっす!」
「ばんわ~!」
挨拶は、多種多様だ。
正しい言葉遣いじゃないにしろ、意味はしっかりと伝わる。
どんなに子供でも、どんなにお年を召していても、挨拶の意味が分からない者はいない。
だからこそ、挨拶は大切なんだ。
サイコパスは、挨拶のできない者が許せない。
人の基本は挨拶である。
仮にその人間が、頭もよく、運動ができ、魅力的な人物であっても……挨拶ができなければ意味がない。
その人間に死刑判決が下されても異論はない。
サイコパスは、そのため人を殺す。
挨拶のできない人間にだけ焦点を当て、確実に殺す。
「おはよう」が言えない人間には、「おやすみなさい」を叩き込んでやる。
それが人として、通す筋ってものだ。
サイコパスは、夢を見る。
老若男女、どこに行っても、どこで出会っても、人種に差別なく挨拶を交わす世界を見たい。
いつの日か、そんな世界をつくってみたい。
挨拶のできない人間の存在を認めず、人々が笑顔で包まれ、礼儀を何よりも大切にし、人が人として生きる世界。
そんな世界を……
サイコパスは、つくりたい。
だからこそ……
サイコパスは、挨拶のできない者を許さない。