LXXI. ヒューマン・アート
サイコパスは、大学を卒業した。
生まれつき常人よりも高い知能が備わっていたため、大学に入ることは元より卒業することも容易かった。
でもそんな僕にも一つだけ悩みがあった。
それは……自分がやりたい仕事が何なのか見つけることができなかったということだ。
サイコパスは、悩みに悩んだ。
大学生の時、就活のことはもちろん考えた。
公務員になれば将来安泰なのは分かっていたし、企業に就職することを考えると自分の実力ならばどこへでも入れる自信もあった。
でも自分のやりたいことが分からず、結局最後まで決まらなかった。
勉強はできるが、やりたいことが分からない。これほどの悩みを今まで持ったことがあろうか……。
頭を抱えるほど悩んで、意味もなく街を徘徊していたそんな時、ある画廊に足を踏み入れた。今考えると、なんでそんな場所に行ったのかよく分からないが、おそらく運命だったのだと何となく感じる。
美術品になど何の関心も持たなかったのだが、そこで初めて見た一枚の絵によって僕の考え方はガラリと変わった。
今でも忘れぬあの衝撃。
たかが紙の上に書かれた、ただの絵なのに、それはまるで生きているかのような印象を僕に与えた。
今まで感じたことのない感覚。
表現するのが難しいが、心に激震が走ったとでも言おう。ゾクゾクと踊りだすように血が沸騰し、その熱で皮膚が泡立ったのかと錯覚するほどだった。
サイコパスは、悩みが吹き飛ぶほどアート作品に心を奪われた。
そして僕は決めたんだ。
衝撃を受けたこの絵のような、アート作品を手がける会社を起業しようと。
そしてしばらくしてから、僕は堂々と胸を張って仕事のできる会社『ヒューマン・アート』を設立し、その会社の代表取締役となった。
創造性と芸術性に富んだアート作品。『生きているアート作品』がわが社の売りだ。
サイコパスは、自分のやりたいことを遂に見つけた。