サイコパスの素顔

小説を書いています。映画レビューもしております。

LXXXIII. 暴食

 

 サイコパスは、パンパンに膨れ上がったお腹をさすった。

 

 お腹を刺激する何かが蠢く。

 きりきりと痛むお腹の中から、胃を突き破って出てきそうだ。

 もし仮に、お腹の中で共同体となったらどうする? 一つの意識を共有する集合体に化けていたらどうする?

 一つ一つの食べ物が、やがて大きな何かに変貌する。

 そう考えると、ちょっと……怖くない?

 人間てのは、内部からの攻撃に対応できる造りにはなっていないんだ。だからもしこの胃袋の中で息を潜める何かが暴れだしたら、手のつけようがない。

 そう考えると、なんか……怖くない?

 

 サイコパスは、箸の動きを止めた。

 

 白米に味噌汁、焼き魚に納豆、オレンジジュース、牛乳、コーラ、ウーロン茶、ハンバーグ、シチュー、焼き鳥、豚カツ、牛タン、焼きそば、うどん、蕎麦、サラダ、ヨーグルト、パフェ、ケーキ、羊羹、ゼリー、プリン……

 

 ヤバい……このままじゃ、殺される。

 胃の中で暴れる、食べ物が僕を殺そうとしている。

 

 暴れる食べ物――「暴食」。

 

 胃の中で一つの意識を持ち出した。

 散々食らっていた食べ物に殺される。

 

 マズい……このままじゃ。

 ダメだ……殺される。

 

 サイコパスは、それでもなお食べ続ける。