LXXXVII. 赤ワイン
サイコパスは、ワインを口にして一言。
――美味い!
ワインは、赤と白があるが、私はもっぱら赤が好きだ。
渋みとコクが口の中に広がっていき、舌の上の10,000個の味蕾を刺激する。
その瞬間、欲しくなってしまうのだ……厚めの極上肉が。
君たちだってそう思うだろ。
サイコパスは、想像しただけで口の中に肉のうま味が広がってくるようだ。
だが、なぜ、赤ワインと肉が合うのだろうか……? よく考えれば、葡萄酒と肉が合うなんて不思議な話だ。
だってそうだろ。
酒は抜きにして、ブドウと肉を同時に食べて美味しいだなんて感じるわけがない。
だったら、なぜ、葡萄酒と肉は合うのだろうか……?
白ワインは合わないよな。完全に合わないというわけではないが、それでもやはり、白は合わん。
肉と合うのはやはり――赤だ。
赤しかないのだ。
赤ワインと肉が口の中でぶつかり合い、肉に染み込んだワインが、噛んだ途端に噴き出してくる。
それは、まるで、生身の人間を粉々に吹き飛ばす様に等しい。
なかなか現実では行うことのできない、許されざる行為、その姿が、口内という誰にも見えない環境で、当然のように行える。
――素晴らしいことではないか。
してはいけない、そういった背徳感があるからこそ、人々は血に飢えるように赤ワインと肉を同時に欲するのだ。
サイコパスは、これからワインを口にする度に思うことだろう。
――いかに人間が、バイオレンスな生き物であるということを。