サイコパスの素顔

小説を書いています。映画レビューもしております。

XCVIII. 恐れるもの

 

 サイコパスは、虚しくなった。

 

 高層ビルの屋上。

 空を眺めれば、どんよりとした曇り空が見つめ返してくる。下を覗き込むと、溢れかえる人の集まりが目に入る。

 満たされない胸の奥が、うずうずと悶える。

 何が欲しいのか、何をしたいのかも分からず、ただだんまりと、遠くを見つめる。

 

 サイコパスは、深いため息をついた。

 

 毎日を生きていても、虚しいだけだ。

 働いていても、ご飯を食べていても、感じるのは虚しさだけ。

 

 友達もいないし、恋人もいない。仲の良かった両親さえも、4年前にこの世を去った。

 「孤独」……この一言で言い表すことのできない感覚が、今、心を空っぽにしていく。

 こんな感覚を抱いたのはごく最近。今までの人生で味わうことのなかった感覚が、唐突に訪れたのだ。

 

 サイコパスは、昔を振り返る。

 

 昔から人との付き合いが好きではなかった。

 友達も最小限の人としか付き合わず、集団行動を避けてきた。

 好きな人ができても、付き合いたいという欲はまったくなく、わざわざ好きだと伝える必要がなかった。

 

 でも今考えると、だからこそこんな感覚に陥ってしまったのかもしれない。

 

 サイコパスは、深い後悔に苛まれた。

 

 この年になると、昔のような生き方をしていられなくなる……そんな気がする。

 友人も作らず、結婚もせずに、今後を考えると……いや、考えなくとも、恐怖が襲ってくる。

 それは、孤独に対する不安だ。

 

 一人で仕事をしていても、一人でご飯を食べていても、一人でバラエティー番組を観ていても……一人で生きていることが……虚しい。

 虚しくて苦しい。苦しくて虚しい。

 孤独が虚しさを生み、故に苦しくなる。

 

 人の気持ちに鈍感で、人の感情を蔑ろにしてきた私でさえも……孤独には勝てない。

 虚しくて耐えられないんだ。

 

 サイコパスは、遠くを見た。

 

 もし生まれ変われることがあるならば、もう一度人生をやり直せるならば、こんな思いはしたくない。

 

 一人でいいから、生涯の友を作りたい。

 一人でいいから、愛する人に傍にいてほしい。

 

 一人じゃ……ダメなんだ。一人じゃ生きていられない。

 

 サイコパスは、孤独に殺された。