LI. ねむってはいけない
サイコパスは、重い瞼を持ち上げる。
いつからだろう……もうわからないや。
一度目を瞑ってしまったら二度と目を覚ますことがないんじゃないか……
いつからかそんな恐ろしい想いを抱いてしまい、眠ることを拒んできた。
サイコパスは、目をこする。
いや……ほとんど瞳を傷つけているといっても過言ではない。
痛みに刺激されてなんとか起きている。でもちょっと痛すぎるや。涙と血が瞳の上で混ざりあい外に流れ出しているのが見なくても分かる。というか、ぼやけて何も見えないけど……
サイコパスは、眠気と闘っている。
でも、もう無理かもしれないや。
限界だ……瞼が10㎏にも20㎏にも30㎏にも、果てしなく重くなっているのが分かる。
サイコパスは、瞼を切り落とした。
これで安心ね。これでだいぶ軽くなったわ。
これで……安心ね。眠る……ことはないや。
これ……で……あんし……ん……ね。こわ……く……ない……や。
サイコパスは、ねむった。
L. 殺人 ⑤
よし! できた! ようやくできた!
サイコパスは、ネックレスを自作した。
一度作ってみたかったんだよねー、オリジナルのネックレス。
骨で作り上げたから、すごくロック感漂ってるわー。
それにしても、思ったよりも骨を切断するのには手間がかかった。
今回使ったのは、手足の指の骨と鎖骨部分。
比較的細い骨だから、簡単なんだろぉなぁ、と思っていたが、鎖骨を分解するのは案外難しかった。
なんというか……コツが必要なのかなって感じ。
力任せに引っ張ってもうまく外せないから、程よい力加減で捻りながら関節を外すって感じかな。
それに、骨にまとわりつく肉や脂、筋を綺麗に剥がすのも苦労した。
手はベトベトになっちゃって何度も何度も大量の洗剤を使って洗ったけど、まだちょっとヌルヌルする。
それにちょっと……臭う。
まぁ今日は有り余るほどの時間があったから、別にいいんだけどね。
なんというか、その……うん、なんだかんだ言って、今日は充実した一日を過ごすことができた。
久しぶりに、心の底から満足した一日を過ごすことができたと思う。
それもこれも、全部彼女のおかげだね。
感謝、感謝……感謝。
サイコパスは、ネックレスを首にかける。
そのまま静かに目を閉じると、懐かしき思い出が蘇る。
彼女自身はもう二度と目を開けることはないけど、僕がこうやって目を閉じれば、好きな時にいつでも、彼女との大切な思い出が蘇る。
それだけで十分じゃないか。
今までよりも僕たちは近い存在になった気がする。
永久に繋がり、永遠に生きる――
サイコパスは、何も考えることなく、彼女のすべてを心に刻んだ。
XLIX. ラーメン
あぁ、もう食えねぇ……
サイコパスは、割り箸を置いた。
つうか、こんな脂っこいラーメン食えるわけねぇんだよ。
もう年だし、若い時みたいにはいかねーよ。
マジで、胃もたれするなんてレベルじゃねーぞ、これ。
もう気持ち悪くて、ゲロ吐きそう……。そんで、そのゲロの臭い嗅いでさらに胃もたれしてゲロ吐きそう。
中年オヤジの胃腸の弱さナメんなよ!
うっ……うぅ……おえっ……!
サイコパスは、店の目の前で嘔吐した。
まだまだいけると心のどこかで思っていたが、体はその意思についてこれていないようだ。
さっき食ったばっかだから、吐瀉物の形状がまだ残ってる。
スープの赤黒い色がそのままで、麺はちぎれちぎれになっている。
オエッ……久しぶりに見たけどやっぱり、ゲロって気持ち悪いな……
でも何よりも気持ち悪いのは、強烈な臭いを放つ脂だった。
おすすめのラーメンを食べたんだが、何て名前のラーメンだったんだろう……? 看板に『おすすめ、 肉ラーメン!』って書いてあるけど、肉の文字の横に不思議な空間があるように思える。チョークの字が薄いせいと夜遅く暗いせいで、よく分からん。
まぁとにかく、何肉ラーメンだか知らんが、背脂が異常なまでに脂ぎっていた。
臭いも、今まで嗅いだどの動物の脂よりも独特の臭みを放っていた。
オエッ……! ……まだでるわ……
サイコパスは、脂ののった筋っぽいチャーシューを口から吐き出した。