サイコパスの素顔

小説を書いています。映画レビューもしております。

2018-01-01から1年間の記事一覧

C. 殺人 ⑩

「ふ~ふふ~ん。ふ~ふふ~~ふ~」 随分と機嫌がよく、鼻歌交じりの細い声が波の音に飲み込まれる。 「ふ~ふふ~ん」 他に聞こえてくる音と言えば、ザク……ザク……と軽快なリズムを奏でる砂の音。 時たま聞こえてくる不協和音は、スコップと貝殻がこすれる…

XCIX. 法律

法律の勉強がしたくなって、僕は大学進学を選んだ。 高校では理系だったものの、突然法律に興味が湧いてしまったから先生の反対を押し切って文転した。 受験科目がいくつか変わり、社会科目をもう一つ選ばないといけなくなった。 正直、試験3か月前のこの時…

XCVIII. 恐れるもの

サイコパスは、虚しくなった。 高層ビルの屋上。 空を眺めれば、どんよりとした曇り空が見つめ返してくる。下を覗き込むと、溢れかえる人の集まりが目に入る。 満たされない胸の奥が、うずうずと悶える。 何が欲しいのか、何をしたいのかも分からず、ただだ…

XCVII. 女ってやつは

サイコパスは、ふつふつと湧き上がる憤りを覚えた。 僕は、真面目な青年。勉強と只管に向き合い、運動においても決して手を抜かない。 ただのガリ勉ではなく、何事にもまっすぐなだけだ。 その気質のせいなのか、最近気に食わないことがあった。 どう考えて…

XCVI. 破壊衝動

形あるもの、いつか壊れる。 人には何かを破壊したいという欲がある。 だが壊すものがなんでもいいというわけでもない。 サイコパスは、決まったものしか壊さない。 手ごろに手に入るもので言えば、ビー玉。 それに、明かりの点いている電灯。 あとは、ワイ…

XCV. ムービー・フォーエバー

目の刺激は耳の2,000倍。 どこかでそんなことを聞いた。 確かに……そうかも。 頑張って働き続けた1日の終わりに目が辛くなることって結構あるよね。 目を閉じて深呼吸してみると、疲れがどっと溢れてくる。じっとりとじっとりと味の出てくるモツ肉を噛み締め…

XCIV. 好きだからこそ

サイコパスは、同僚に相談した。 「最近好きな人ができたんだけど、どうしたらいいと思う?」 相談した相手もまた、サイコパス。 同じサイコパスだからこそ、悩みを打ち明けた。きっといい答えが聞ける。そう思って彼は、サイコパスである会社の同僚に悩み相…

XCIII. 叩殺

サイコパスは、……。 銀行にて立て籠もり。多くの人質がとられている。 警察は要求に応えない。犯人は人質を一人ずつ殺すと宣言。それでも狼狽えない警察。 マスコミの目の前に頭陀袋が投げられる。よく見るとそれは人間。 顔面は見る影もないほどズタズタ。…

XCII. 泡

サイコパスは、ゲホゲホッ……ゲホ。 今日の朝、急いでお風呂に入った。 頭洗って、体洗って、そして洗顔。 その時だった。死ぬかもしれない……そう思ったのは。 思い切り泡立てた洗顔料を顔一杯に塗りたくって、手の平で転がす。今思い返せば、泡のほとんどが…

XCI. 目障り罪

優先席に座る、平気で通話する、見た目ヤンキー。はい、死刑。 派手なベルト、夜なのにサングラス、横柄な態度。はい、死刑。 茶髪、日サロ黒、キャップ、キツい香水。はい、はい、死刑。 マナーがなっていない、自分のことをカッコいいと勘違いしている、典…

XC. 殺人 ⑨

波の音にその身任せ、隣にいる美しい女性の横顔を盗み見る。 幸せといえるこの時間、朝7時の太陽は優しかった。 「綺麗ですね」 彼女が言う。 「ええ。綺麗です」 僕が言う。 「サキさんは、海好きなんですか?」 「う~ん。好き。よく一人で来たりする」 輝…

LXXXIX. 靴

サイコパスは、コレクションを見てしみじみと感じた。 おもしろいよね……靴って。 サイコパスは、靴に対して不思議な感情を抱いていた。 それも新品の靴じゃなく、何年も履き潰したようなおんぼろ靴。 人が履いた靴には、歴史が詰まっている。 その人の思い出…

LXXXVIII. 砂抜き

ジャリ……ッ! うっ……。 サイコパスは、口の動きを止めた。 ……最悪。またかよ。 サイコパスは、口の中で噛み潰したものをすべて吐き出した。 テーブルの中に吐き出されたそれは、身と僅かの砂粒。 おいおい! これマジで不快だわー。美味しく食べてるのに急に…

LXXXVII. 赤ワイン

サイコパスは、ワインを口にして一言。 ――美味い! ワインは、赤と白があるが、私はもっぱら赤が好きだ。 渋みとコクが口の中に広がっていき、舌の上の10,000個の味蕾を刺激する。 その瞬間、欲しくなってしまうのだ……厚めの極上肉が。 君たちだってそう思う…

LXXXVI. 形なき形

整形……形を整えること。 整形にはいろいろな意味があるが、そのほとんどは「ブサイクな顔をキレイにすること」の意味で用いられる。 生まれたときの顔では満足できない……だから整形する。 というよりは、ブサイクが故に虐げられてきたから顔を変える。オブラ…

LXXXV. ヒートショック

お風呂での死亡事故って案外多い。 ウソでしょ、お風呂で溺れる? そんなことあるの……!? そう思うのも当然かも。 一日の疲れを癒そうとして、自らの意思で入った浴槽で死ぬなんてちょっと可笑しい。「極楽、極楽……」って言いながら気持ちよさそうに死んじ…

LXXXIV. 時代が親切心を殺す

サイコパスは、今日見た風景をそのまま話す。 電車の中。向かい側に座る女子中学生ふたりが目に入った。 その隣には、おばあちゃん。歳は、おそらく70ぐらい。その隣にはおばあちゃんの息子らしい男性がいた。年齢は30代後半ぐらいだ。 電車が進み始めると、…

LXXXIII. 暴食

サイコパスは、パンパンに膨れ上がったお腹をさすった。 お腹を刺激する何かが蠢く。 きりきりと痛むお腹の中から、胃を突き破って出てきそうだ。 もし仮に、お腹の中で共同体となったらどうする? 一つの意識を共有する集合体に化けていたらどうする? 一つ…

LXXXII. かわいい子が好き

サイコパスは、今日も仕事だ。 朝起きて、お風呂に入る。朝食を食べる時間はないけど、一杯のコーヒーだけは忘れない。歯を磨いて鏡でチェックして、家を出た。 いつもの電車にいつものドアから乗り込むと、いつもの席に腰を下ろした。誰もが好きな、シート…

LXXXI. 抉殺

サイコパスは、……。 憎しみ、怒り、愛。 行き先は、冷酷。 人は人を憎み、憎んだ記憶は忘却できない。憎しみは些細なことで掘り起こされ、怒りはすぐさま沸点に達する。 愛せば愛すほどに、愛は愛を歪ませる。 歪んだ感情はまっすぐに突き進む。どんなに固い…

LXXX. 殺人 ⑧

朝の陽ざしに心躍り、全身が汗ばむほどがむしゃらに走る。公園を駆け抜け、海沿いの砂浜を蹴り、近くのカフェで飲む一杯のコーヒーが喉を潤す。 息が上がりながらも、店員の眩しい笑顔に癒されながら、疾走感と清涼感、悪いものが体からすべて流れ出るような…

LXXIX. 似ている人は3人いる

サイコパスは、知人に似た人物を見かけた。 それも、突然。 突然の出来事に驚いている。 年が離れているから本人かもしれないって思うことはなかったけれど、そのソックリぶりに、自分の目を疑った。 目元が似ていて歯並びもソックリ。まるでその知人の妹の…

LXXVIII. 行動すれば、変わる

サイコパスは、チャンスを逃してきた。 ここぞというときに、不安や恐怖に駆られ、自らが抱く想いに素直に向き合えない。 その心の弱さゆえ、チャンスを逃してしまう。 誰かが言っていた。 『行動すれば、変わる』と。 まさにその通りだと今なら分かる。 受…

LXXVII. タバコ

単刀直入に言う。 タバコが嫌いだ。 サイコパスは、タバコが嫌いだ。 人は時に、カッコつける。 特に男は、カッコつけたがる。 その時に便利な道具が、タバコって代物だ。 粋がっている男、やんちゃな男、自分のことをカッコいいと勘違いしている男。 こいつ…

LXXVI. 指

サイコパスは考えた。 なんで人の指って、10本なんだろう……? 足の指を合わせたら20本……まぁ足はとりあえずいいか。 人の指ってなんで10本なんだろう……? その中でも、どの指が一番重要なんだろう……? サイコパスは考えた。 親指は重要だよね。 だって、親指…

LXXV. 学歴社会

サイコパスは、大学に入って3年が経つ。 今週は、テスト期間。大学の卒業を賭けた大勝負だ。 一週間で8つものテストがある。専門科目から教養科目まで多種多様。一夜漬けで満点が取れる比較的容易なテスト、何週間も前からみっちり勉強しないと合格点にすら…

LXXIV. 電車に揺られながら

サイコパスは、よく小説を読む。 電車に揺られながら、って言葉、よく見かける。 小説とかの決まり文句だよね。出だしに困ってるときや物語を締めたいとき、よく使われるよね。 サイコパスは、筆を握った。 電車に揺られながら……わたしも使ってみたい。 電車…

LXXIII. 友達

サイコパスは、人を殺した。 僕は人を殺した。 でも興味本位で殺してしまったから、この後どうしていいか分からない。 そこで僕は友達に電話することにした。 「あ、もしもし、僕だけど、今大丈夫?」 「今? ……うん、大丈夫よ。どうしたの?」 電話に出た友…

LXXII. まだ、死ぬな。

サイコパスは考えた。 自殺することについて考えた。 人は皆、知らずのうちにこの世に生を受け、勝手に死のうと考える。 面白くない。落胆。がっかり。悲しみ。絶望。 自分の人生において、一瞬でもそのような感情を抱くと、人はどうしてか、死ぬことを考え…

LXXI. ヒューマン・アート

サイコパスは、大学を卒業した。 生まれつき常人よりも高い知能が備わっていたため、大学に入ることは元より卒業することも容易かった。 でもそんな僕にも一つだけ悩みがあった。 それは……自分がやりたい仕事が何なのか見つけることができなかったということ…