サイコパスの素顔

小説を書いています。映画レビューもしております。

LXXXIX. 靴

 

 サイコパスは、コレクションを見てしみじみと感じた。

 

 おもしろいよね……靴って。

 

 サイコパスは、靴に対して不思議な感情を抱いていた。

 

 それも新品の靴じゃなく、何年も履き潰したようなおんぼろ靴。

 

 人が履いた靴には、歴史が詰まっている。

 その人の思い出や経験もいっぱい詰まっている。

 かけがえのない一つ一つの個性が染み込んでいる。

 

 その靴をこの手に取るたび……感じる。

 その人のすべてがわかる気がする。

 

 ……その感覚がたまらない。

 

 サイコパスは、古靴に心惹かれた。

 

 でも残念なことに、そういう靴はなかなか手に入らない。

 

 売っている古靴は、綺麗にクリーニングされていて意味をなさないし、捨ててある靴を漁るのは乞食みたいで気が引けた。

 

 だから……奪うしかなかった。

 

 サイコパスは、人を殺した。

 

 仕方なかった。

 そうしなければ欲しい物なんて手に入らない。

 

 それに、殺した人たちは実のところ死んではいないんだ。

 

 だって、そうだろ……

 

 その人たちの人生は、ちゃんと靴の中で生きているんだから。