サイコパスの素顔

小説を書いています。映画レビューもしております。

LXX. 殺人 ⑦

 

 サイコパスは、考えていた。

 

 というよりも……

 

 サイコパスは、思い出そうとしていた。

 

 僕の殺した彼女が、どんな女性だったかを。

 

 突発的に殺し、死体の処理に困った僕は、解体して骨のネックレスを作ったり、その肉を散々食らったりした。脂肪、血、肉、骨……彼女のことを思い出しながら、僕は彼女と一つになろうと努力した。

 でも……だめだ。

 

 サイコパスは、部屋の片隅で泣いている。

 

 思い出せないんだ。

 

 ……綺麗だった彼女の声が。

 

 思い出せないんだ。

 

 ……愛おしかった彼女の癖が。

 

 思い出せないんだ。

 

 ……寒い日に寄り添った彼女のぬくもりが。

 

 思い出せないんだ。

 

 ……笑顔が。僕の一番好きだった……彼女の眩しい笑顔が。

 

 サイコパスは、頭がおかしくなってしまったのだろうか。

 

 心から愛する女性に自ら手をかけ、死んでもなお彼女と一緒にいたいと願った。殺した理由はどうでもいい。好きだからいまだ一緒にいる。

 でもどうしてか、彼女が遠くいるように感じてしまうんだ。

 首に提げるネックレスも、胃の中に納まる肉も、彼女だ。彼女なのに、僕はどうしてか苦しい。前よりも一緒にいる時間が長いのに、嬉しくない。苦しくて仕方ない。

 

 ねぇ、どうして? 聞こえているなら応えてくれ……!

 

 サイコパスは、宙に向かって言葉を放った。

 

 だが返ってくるのは、壁に跳ね返った自分の声だ。

 涙声のかすれた声が、真夜中に響く。それを聞いて、虚しくなる。

 彼女との記憶はもはや、一片もなく消え去った。

 

 彼女との別れを余儀なくされた。でも僕は……もういい。

 

 サイコパスは、どんな女性だったか思い出せなくなった彼女の幸せを願うだけだ。

 

 考えたくない。考えられない。彼女との別れ。

 考えたくない。考えられない。彼女は僕の、何だったのだろう。

 考えたくない。考えられない。考えたく……ない。