サイコパスの素顔

小説を書いています。映画レビューもしております。

CIV. イラっとすること

 

 …………チッ。

 

 サイコパスは、今少しだけイラっとした。

 

 それと……少しばかりの殺意も芽生える。

 

 小さなことだけど、些細なことだけど……イラっとする瞬間は誰にでもあると思うんだ。

 私の場合は、エレベーターを降りる際に何も言わない人にイラっとする。

 

 えっ……うそでしょ? 扉の開閉ボタンを操作してあげているのに、あなたが降りる際に開くボタンを押してあげているのに、お礼の一言もないわけ!?

 

 そんな状況に出くわすと、私はとってもイラっとする。溢れんばかりの殺意に、目つきが悪くなっていることにも自分で気づけるほどに。

 でもそれって、間違ってないよね? みんなだって共感できるでしょ?

 

 人として、お礼を言うことは当たり前のことだと思うの。たとえお礼の一言が言えないとしても、せめて会釈ぐらいはしてほしいし。

 

 そんな簡単な、人として当たり前のことができない人は、生きていても意味ないと思うの。死んだって、誰も悲しまない……とは言わないけど、他人を不快な気持ちにさせる人に生きる資格はない。エレベーターを降りる際、お礼を言わない人に生きる価値なんてないよ。

 

 だからね……

 

 サイコパスは、お礼をしなかった人の後をこっそりとつけた。

 

 そうして、その人の家まで尾行し、私はひっそりと火をつける。

 そうすることで、少しばかりのイラッとした気持ちはようやく晴れる。

 でもこれって、因果応報ってやつ? 自業自得よね?

 

 エレベーターを降りる際に不愛想な顔をしたあの人が、火だるまになって変な顔してるの。あははっ、って笑っちゃうぐらい、私、おかしくて……。

 あそこで、少しでいいからお礼を言っておけば、会釈をしていれば、よかったのに、本当にバカだよね。私に不快な思いをさせた人はみんなこうなる。

 

 わかった? みんなも気をつけてよね。燃えたくないでしょ? 熱いのは嫌だよね。

 

 あっ……そうだ。そうだ、ねぇねえ……

 

 私のイラっとすること……まだまだあるかも。

 

 サイコパスは、ニコリと微笑んだ。

CIII. なぜ

 

 「なぜ」を考えろと親に教わったことがある。

 

 なぜ火は燃えるの? なぜ飛行機は空を飛ぶの? なぜ人は生きるの? 

 

 そんな「なぜ」を色々考えて思った。

 

 なぜ、「なぜ」を考えないといけないの? 

 

 サイコパスは、ふと疑問に思ってしまったのだ。

 

 学校の先生が教える算数の答え、それに国語の文章読解も、答えは用意されている。そこに「なぜ」を唱えて目を逸らしても、自分なりの答えを主張しても、結局先生は「いい加減にしなさい! 素直になりなさい!」と声を荒げる。

 

 結果的にいつも、「なぜ」怒られるのかが分からない。「なぜ」を考えると「なぜ」先生は怒る? 「なぜ」を考えることは悪いことなの?

 

 だったらいっそ、「なぜ」なんて考える必要、ないように思える。

 

 サイコパスは、そんな苦い過去から答えを学んだ。

 

 友達がすることには黙ってついて行き、先生の言動は正しいものだと迷いなく受けいれる。そうすればきっと、迷惑はかからない。「なぜ」を考えなければ、友達から嫌な顔をされることもなくなり、先生に無視されることもなくなる。

 

 「なぜ」を考えることはダメなことなんだ。

 だから、「なぜ」を考えることはやめた。

 

 サイコパスは、「なぜ」を考えることをやめてしまった。

 

 友達が友達を仲間はずれにしていても、それを見て見ぬふりをする先生の冷たい顔も、そこに「なぜ」を考えてはいけない。

 だって、正しいんでしょ?

 「なぜ」イジメはよくないのかと、「なぜ」嘘をつくことがいけないのかと、大人たちが口を揃えて説いても、それはきっと引っかけ問題。

 だって、「なぜ」を考えちゃダメなんでしょ?

 

 社会で起きていることをありのまま受け入れろってことでしょ?

 

 人を騙したり、いじめたり、殺したって、「なぜ」そんなことをしちゃいけないのかを考えたらダメ。現実の社会で起きていることを「なぜ」と疑問視するのではなく、全部正しいと受け入れることが大切。

 きっとそうなんでしょ?

 

 「なぜ」人の物を盗んじゃいけないの……。

 「なぜ」人を傷つけちゃいけないの……。

 

 「なぜ」そんなことを考えているの?

 「なぜ」なんて感じちゃダメ。

 

 そう、ダメなんでしょ?

 

 サイコパスは、もう「なぜ」なんて考えない。

CII. 内臓吸い取り機

 

 正月ということで、少し笑える話をしようじゃないか。

 正月ぐらい、残酷な話は控えたほうがいいだろ。

 正月なんだから、みんなで楽しく過ごしながらお餅でも食べようではないか。

 

 サイコパスは、お餅を頬張った。

 

 口の中に広がる粉っぽさ、それと同時に舌に絡みつく甘さは、お餅の弾力と良く合う。口の中一杯に押し込んだきな粉餅は、一瞬にして幸せな気持ちになる。

 お雑煮、きな粉餅、あんこ餅、もちもちもちもちもち。

 

 正月に食べる、餅はうめぇ!!

 

 そんな時……

 

 サイコパスは、ふと、思った。

 

 喉を通る途中でねちっこく跳ねたお餅が、毎年恒例の事故を思い出させた。

 

 お餅で亡くなる人……毎年絶対にいるよな。いないことなんてない。必ず一人や二人は喉に詰まらせる。

 

 新年に死んでしまうなんて不幸なことだが、本当に興味深いもんだよな。

 

 どうして、おめでたい日にお餅を詰まらせるのか。

 どうして、縁起物のお餅を食べて死んでしまうのか。

 どうして、注意喚起をしてもなお死人の出ない新年が始まらないのか。

 

 ……でもまぁ、何度も同じ間違いを犯すのは人間の専売特許のようなものだ。こんなことを考えていても、お餅で喉を詰まらす人がいなくなることはないのかもしれない。

 

 でもそんな時……

 

 サイコパスは、パッと閃いた。

 

 それは、餅を詰まらせない方法だ。

 この方法ならきっと、死人なしの新年を迎えることができるのではないかと思う。

 その方法は、ある情報からヒントをもらったんだが、よく言うだろ。「万が一、喉にお餅を詰まらせた場合は掃除機で吸ってください」って。

 ちょっとバカっぽい発想だけど、割と効果があるらしい。自分でやったことはないけど、応急処置にはなるんだとか……。

 

 だったら、いっそのこと「お餅吸い取り機」でも作ればいいのに。

 

 サイコパスは、そんな発想に辿り着いた。

 

 万が一の時にでもすぐに対処できる画期的なアイテム、一家に一台、「お餅吸い取り機」の常備を促したらどうだ。

 仕様はほとんど掃除機と一緒。違うのは、何とかソンにも負けない絶大な吸引力で喉に詰まった異物を確実に吸い取る力。

 

 これさえあればもう安心! 正月にお餅を食べて死ぬ人なし!

 

 どうだろうか? こんなアイテムが実現されれば、絶対にいいと思うんだが。

 

 ……あっ……でも……

 ちょっと待てよ……。

 

 サイコパスは、もう一つ考えた。

 

 「お餅吸い取り機」を作るついでにもう一つお願いしたい、あるアイテム。

 「内臓吸い取り機」……作ってもらいたいかも。

 

 サイコパスは、ちょっと不満を吐く。

 

 いつも思ってたんだけど、人間の処理ってすげぇめんどくさいわけよ。

 内臓をいちいち取り除く作業が辛いのなんの。

 それに加えて、腹を裂いて内臓を出すと、部屋は汚れるし鮮度は落ちるしで大変なことだらけ。

 だからこそ、喉に掃除機突っ込んで内臓一気に引きずり出せたらどんなにいいことかと、ふと思っちゃった。

 

 喉に詰まったお餅をスポッと吸い取れるぐらいの吸引力が搭載できるならきっと内臓を吸い取る技術力もあるはず。

 

 頼む! 

 バカっぽい発想で申し訳ないが「お餅吸い取り機」・「内臓吸い取り機」どっかの企業が作ってくれ!

 

 そんなことを祈る、イカれたお正月!

 結局残酷な話で、胃がもたれる!