LXIII. シチュー
ぐつぐつと、煮えたぎる鍋に具材を放り込む。
ニンジンさん……
ジャガイモさん……
タマネギさん……
…………?
サイコパスは、お肉片手に動きを止めた。
あれ……? このお肉の名前、何だったかしら?
さっきまで覚えていたのに……年を取ると記憶力が悪くなっていく。
ほんとに、嫌だわ……年寄りって……。
サイコパスは、しわだらけの手で、お肉を放り込んだ。
――名前のないお肉。
生きていた時は確かに名前があったのに、切り刻まれた今は、名前は命と共に消え去った。
可愛い笑顔が印象的だったのに、今はどんな顔をするわけでもなく、初めて会った具材と一緒に、鍋の中で踊っている。
脂肪は熱で溶かされ、見る見るうちに小さくなっていく。沈んでは浮き上がり、浮き上がっては沈んでいく。
鍋の中を彷徨うそれは、今やただのお肉だ。
一度失われた命は、他の具材と共に別の集合体へと姿を変えていく。
意思を持つことも許されず、流れに身を任せるままに……
サイコパスは、鍋をかき混ぜるだけ……それだけだ。